【判例紹介】父母以外の第三者で事実上子を監護していたものが子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることが違法とされた事例(最高裁判所第一小法廷令和3年3月29日決定)
事案の概要
Y(夫)は、Xらの子であるB(妻)と婚姻し、子Aが生まれた。Yは、ABとともにXらの自宅で同居していたが、BがステージⅣのすい臓がんに罹患していることが発覚した後、平成29年1月に別居を開始した。YとBはAを1週間又は2週間ごとに交代で監護し、XらはBの監護を補助していた。その後、平成30年にBが死亡したことにより、子AはYが単独で監護するようになった。孫であるBと会えなくなったXらは、Yに対してBとの面会交流を求める審判を申した立てた。
原々審である京都家庭裁判所は、子Bに対して祖父母にあたるXらは、面会交流の審判を申し立てる立場にないとして、その申し立てを却下した。これに対し、原審である大阪高等裁判所は、第三者と子との面会交流を認めることが子の利益にかなうと考えられる場合には、民法766条1項及び2項の類推適用により、子の監護に関する処分として面会交流を認める余地があるとして、原々審を取消して本件を差し戻した。原審の決定に対して、Yが抗告したのが本件である。
判決の要旨
最高裁は、上記事案について、大阪高等裁判所の原決定を破棄し、京都家庭裁判所の原々審に対するXらの抗告を不適法なものとして却下するという決定をした。つまり、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として第三者と子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないと判断した。
解説
民法766条1項2項は、父母が協議離婚する際、父又は母との面会交流について定めるよう家庭裁判所に対して申し立てることができる旨を定めている。平成23年の民法改正によって、同条1項に「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」との文言が加えられたことは記憶に新しい。この面会交流についての定めは、家事事件手続法別表第2の3の「子の監護に関する処分」に対応し、家庭裁判所に対する家事審判が可能となっている。
民法766条
- 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
- 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
- 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
- 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
本件は、子にとっての父母ではない第三者が、事情によっては民法766条を類推適用することによって、面会交流について定めるよう審判の申し立てができるか否かが問題となったものである。
この問題について、研究者の間では意見が割れており、肯定説と否定説がそれぞれ存在した。肯定説は、親と同視できるような実質的関係をもち、かつ面会交流を認めることが子の利益になる場合には、民法766条を類推適用すべきだと主張している。他方で、否定説は、面会交流が民法766条の定める子の監護に関する処分の一つであるとすれば、その当事者は父母に限られ、父母以外の第三者は面会交流の申立権が認められないと主張する。
これに対し、最高裁判所は、否定説の主張と同様に、民法766条の文言からそお当事者は父母に限られ、第三者の申立ては予定されておらず、またその他の法令においても事実上子を監護してきた第三者が面会交流について裁判所に審判を申し立てることができるとの規定は存在しないとし、第三者による申立てを不適法なものと判断した。さらに、原審である大阪高等裁判所が引き合いに出した「子の利益」については、「子の利益は、子の監護に関する事項を定めるにあたって最も優先して考慮しなければならないものであるが(民法766条1項後段参照)、このことは上記第三者に上記の申立てを許容する根拠となるものではない」とした。
面会交流をめぐる問題は、父母の争いだけであっても子にとって葛藤をもたらすものであることからすれば、それに第三者が介入することはそもそも子にとって利益になるとは思われない。第三者による申立てが可能となれば、申立てが錯綜して問題がさらに複雑化する可能性もあることをかんがえればなおさらである。
また、第三者という立場はあまりに広く、家庭裁判所が「子の利益」を判断するためにいかなる調査をすればよいのか、それらの調査をするだけのマンパワーがなく(父母の場合には、調査方法がある程度類型的に確立しているが、それでも家庭裁判所調査官による多大な労力が求められる。)、現実的に困難であるという問題もある。
そして、仮に父母による監護に問題がある場合には、第三者からの親権停止や親権喪失の申し立てが可能であり、「子の利益」を担保するための制度的な補償もなされている。
最高裁の判断はある意味では法令の文言を形式的になぞったものであるが、かかる実質的な判断をもとになされているものと思われる。
なお、審判ではなく調停の場面であれば、祖父母と子との面会交流は家事事件手続法244条「家庭に関する事件」として申立てや調停による解決が可能である。実務においてそれほど多く見られるものではないが、祖父母が孫との面会交流を望む場合、本件判例によって選択肢がある程度決まるという観点からは重要な事例といえる。
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